渦男のジャズ道場

八王子の音楽教室ミュージックサロンア・ミューズのサックス講師 網 渦男のブログです。 サックスに関すること、ジャズに関することなどをまとめております。(旧さきこら)

2017年09月

私はサックスを始めたばかりの学生の頃、
特にレッスンなどには付いていませんでした。
いわゆる独学です。

そのこと自体、非常に後悔した時期もありましたが、
『教える仕事』をするようになって
その考えは変わりました。

なぜなら独学で『遠回り』したおかげで、
大抵の間違った奏法、練習法、考え方を経験したからです。
 

プロのプレイヤーとして成功したければ、
レッスンについて人よりも早く上達をすべきですが、
レッスンプロとしては経験が足らない事になります。

正しい知識、情報を提供する事と、
どうして間違った方向へ行ってしまうのか?
の原因を突き止めることは似て非なるものなのです。

人から安易に手に入れた情報と
自分の経験から得た情報は違います。

イチローの言葉を借りればそれは
『深みの無い』情報だからです。

例えばサックスの演奏中に高い音を出そうと
マウスピースを噛んでしまうという癖があるとします。

そこで『噛んではいけません』というアドヴァイスをする講師は
プロでは有りません。
そんなことネットでタダで手に入る情報だからです。

本来、講師は
『どうして噛んでしまうのか?』
を考えなくてはなりません。
もっと言えば
『この人はどうして噛んでしまうのか?』
から考えなくてはなりません。

なぜなら『噛んでしまう理由』なんて無数にあるからです。
そしてその原因、理由がわかってそれを指摘しても
簡単に改善しない事もあるのです。

或る場合は『体、筋肉の癖、習慣』だったり、
或る場合は『マインドブロック』だったりです。

体は意識的にも無意識的にも脳の命令で動いています。
正しい情報を与えたところで脳の回路を
すぐに修正できない事もあるのです。

ですから外から見て同じ状況であっても、
『噛まないで』とそのまま伝える人もいれば、
『そこは「ア」と発音してください』と言う人もいれば、
『飼い猫を思い出してください』と言う人もいれば、
『あのCDのあの音をイメージしてください』と言う人もいるのです。

相手の脳にある『パラメータ』を如何に探り当てるか?
がレッスンプロの腕の見せ所なのです。
伝えたい相手の脳にある概念で例える事が
正確に早く伝えるコツとなります。

これは企業のプレゼンテーションも同じでしょう。
ジョブズはそれが上手でした。

『伝える力』はプレゼンもレッスンも演奏も
同じだと私は思っています。


                                                             


 

私自身は小学校1年生の時にちょうど
『ブロック崩し』や『インベーダーゲーム』が流行った
いわゆる『ファミコン世代』ですが、
あいにく母子家庭の一人息子と言う状況では
到底『ファミコン』など買ってもらえるはずもなく、
ファミコンと言えば、お金持ちの友達の家に行っては
気を使って遠慮しながらちょっとだけ楽しませてもらうという
ちょっぴりほろ苦い記憶でございます(笑)。

最近はDSやら何やら(よく知らない)
子供の頃からゲームに親しんでいるのは
当たり前で、生徒さんにレッスンをしていても
『何か攻略法ないっすか?』とよく質問されます。
そんな時に『ゲーム脳だなぁ』と感じたりします。

アドリブと言うのは
『残酷なほどの自由』
を与えられる状況に身をさらす行為です。
『何をやっても自由ですが結果は自己責任』なのです。

自分の脳内ではチャーリー・パーカーや
ソニー・ロリンズ宜しくカッコイイプレイをしていると
思っていても周りの反応はそれほどよろしくなかったり…
というのが現実だったりします。

『自由を与えられて何をするべきか?』
何やら哲学的な命題を突きつけられるのが
ジャズのアドリブです。

話を『ゲーム脳』に戻します。
アドリブと言ってもその内容の評価には
ある程度の基準が存在するわけで
批判を恐れずはっきり言えば
『雑音(ノイズ)』と『音楽』に分かれます。
ストラヴィンスキー曰く、
『音楽とは音程をコントロールする事』
これに横軸にあたる『リズム』を加えて
『音をコントロールする事』と捉えれば
ある秩序(ルール)によって音を
アレンジメントする事と言えるでしょう。
我々の子供の頃のゲームは
『ブロックをただ崩すだけ』とか
『インベーダーをただ撃つだけ』という
単純でテクニックさえ訓練すればよいものが多かったのです。

しかし最近のゲームはそれらの要素に加え
『隠れアイテム』や『ウラ技』など設定が細かいですね。
私の時代の『ゲーム脳』と今のそれとでは
『質が違う』のです。
そういう意味で最近の『ゲーム脳』の方が複雑で
ジャズのアドリブを学ぶには適しているように思います。
若い世代は『どのうに攻略するか?』に熱中します。

昨今『AI時代』の到来と言われ、
世の中がどう変わるのか?とか
どんな職業が無くなるのか?とか
どのような人間が生き残るのか?
などと論議が盛んになっております。

東京都初の民間人校長として話題となった
藤原和博氏によると
これまでの成長社会では『情報処理力』が重要であったが
これからの成熟社会では『情報編集力』が重要になる。
ということです。

つまり、答えが決まっている問題の解決は
決まっている正解を当てる力です。

答えの決まっていない問題の解決は
納得解を導き出す力と言えるでしょう。

ジャズのアドリブに決まった正解はありません。
暗記しているツーファイブフレーズも正解ですし、
突拍子も無いヘンチクリンなフレーズも正解かもしれません。

ただそのヘンチクリンなフレーズはデタラメであれば、
音楽の流れはおかしなことになるでしょう。
コードやリズムなどの情報を踏まえた上で
常識の範囲ギリギリのヘンチクリンであれば、
人によっては『超クール!』となるかもしれません。

Bebopの時代には数々の正解フレーズが発明されました。
今は当時の人からすると『ヘンチクリン』なフレーズを
プレイする人は沢山居ます。
ジャズマンは『ヘンチクリン』が大好きなのでしょう。
ゲームの攻略で言えば
バグを利用した『裏ワザ』や『隠しアイテム』でしょうか。

『ゲーム脳』と言ってもゲーム自体の複雑化、進化によって
単純な情報処理能力だけでは攻略できないように変化してきています。
複雑な設定やオンラインのチームプレイなどでは
情報編集能力も必要となってきているでしょう。

今、電車の中で隣のサラリーマンがスマホでゲームに興じています。
ジャズのアドリブの方がよっぽど面白いのに!
と思いながら、このブログを書いています。




                                                             


 

以前から『お笑い』と『音楽』については
このブログの中でちょいちょい触れてきてはいるのですが、
今日はちゃんとテーマとして取り上げて書いてみたいと思います。

まず『お笑い』ですが、今、テレビを見ると『お笑い番組』というのは
『バラエティ番組』という『幕の内弁当』みたいなものが主流のような気がします。

所謂、『ネタ番組』と言うのは昔から比べると減少したのかもしれません。
今は『お笑い芸人』をキャスティングして、フリートークして
人を笑わせるのが『お笑い芸人』の芸だ
と思っている人も多いかもしれませんね。

彼らは元来劇場や寄席出身の『ネタ芸人』でした。
日々ライブで観客を前に『仕込んだネタ』を披露し、
厳しい洗礼を受けながらのし上がってきた人たちです。

彼らがM-1、R-1で輝かしい成績を残せば
その後、TVの仕事が一時は増えたりします。

しかしグランプリを獲ったにもかかわらず、
TVでは見かけなくなってしまった芸人さんたちもたくさんいます。

TVに出ていないと『売れなくなった』と錯覚してしまいますが、
彼らの中には劇場や寄席という現場で
いまだに大爆笑を取っている人たちも少なくないのです。

マーケットとコンテンツの違いです。

昔、私が尊敬してやまない『タモリ』さんがこんなことを言いました。

『TVは素人が出るものだよ。』

アングラな宴会芸でお笑いの世界に入ったタモリさんならではの
コメントです。

吉本のルミネや寄席と違って、TVという媒体は
寝転がりながら
食べたり飲んだりしながら
スマホをいじりながら
見れますし、
途中でチャンネルを変えることもできます。
NHKでなければお金を払う必要もありません。


何年も修行を積んだお笑いの芸を楽しむならば
入場料を払って楽しむべきでしょう。
劇場や寄席は修行や鍛錬の結果得られた『お笑い職人のスキル』や
『伝統芸能』というコンテンツを楽しむマーケットなのです。

ですから落語のように『同じネタ』でも構わないのです。
内容(情報)でなく『芸』を楽しんでいるのですから。
言い換えれば『何を』でなく『どのように』が重要、価値となります。

『「芝浜」は談志が最高!』などと言うのも演じ方、ニュアンスの違いで
評価されているわけです。


『古典落語』の『古典』を英語に訳すと『クラシック』です。

クラシック音楽も同様、楽譜は一緒で奏者(指揮者も含む)の違いを聴いて楽しむ、
つまりこれも職人芸です。

タモリさんが
『TVは素人が出るものだよ』
と言ったり
『私の芸なんざ素人の宴会芸だよ』
と言ったのは
そういう伝統芸と自分の芸は種類が違うのだと言う事と
『TVは伝統芸のようなコンテンツのマーケットではなくなる』
という事を意味していたのです。

今、TVと言うマーケットでお笑い芸人として戦っていく為には、
『フリートークでのアドリブで笑いを取る』スキルがなくては
『おもんない』としてお声がかからなくなってしまいます。
劇場や寄席の下積み時代で獲得したお笑いのノウハウを
練習なしのアドリブで応用し、活用していかなければなりません。

昔の芸人はクラシック奏者のように本番まで練習し、
それを舞台で上手に表現すればお金がもらえました。


でも今のTV芸人はお笑いのノウハウを
TV画面の中で、他の出演者とコミュニケーションしながら
即興で反応し、流れを作り、パスを回し、トスを上げ、
見事に『オチ』を決めるスキルがいるのです。

まるでジャズミュージシャンのようです。

実は私がタモリさんを尊敬している理由はそこです。

『笑っていいとも』でタレント、芸人、ゲストなど
様々なキャストに進行を任せて、タモリさん本人は一歩引いて自然体。

流れが危なくなったり、マンネリに傾きそうになると全く脈絡と関係ない
『あれ?最近太った?』とか
『その髪型おかしくない?』などのコメントをぶち込んで場の空気を換えてしまう。
まるで、エレクトリック時代のマイルスのキーボードプレイのようです。
定石を嫌い、ハプニングを好むスピリットです。

現在のフリートークお笑い芸人の中でのNo.1は異論無しに
ダウンタウンの松本人志さんでしょう。

彼は若い頃、紳助・竜介を始め多くの芸人のネタを研究したそうです。
そんな即興お笑いモンスターの松本氏は
今でも欠かさず、毎日落語を聴いているそうです。

それが桂枝雀さんと立川志の輔さんだそうです。

ここからは私の勝手な想像ですが、
毎日欠かさず聴くと言う事は分析もさることながら、
体にしみこませているのではないでしょうか?
それは話の流れの『型』であるかもしれないし、
演者独特の『イントネーション』や『間』なのかもしれません。

レベルも質も違いすぎる話ですが、私も学生の頃、
アドリブのマスターのノウハウが全く解らず、
ただひたすらソニー・ロリンズのソロをコピーし、
『音源と同時にシンクロさせてプレイする』という
謎の練習をしていました(笑)。

全く理論的根拠も裏付けもない『おまじない』のような練習ですが、
いくつか得たことはあります。

ニュアンスやイントネーションをまねる事は当然ですが、
シンクロすることにより大きく影響を受けたのは
『間』を含めた『テンション』と『リリース』です。
これは松本氏も『笑い』の生まれる瞬間として言っています。

私はロリンズのソロを『なりきってプレイする』ことで
彼のソロに流れる『テンション』と『リリース』のパルスを感じるようになりました。
そして『名演』とされるソロには必ず『テンション』と『リリース』の
心地よい繰り返しが存在する事が解ったのです。

もしかしたら松本人志氏も枝雀と志の輔を聴きながら
一流の話芸のエッセンスを肌で吸収し、
同じようなパルスを感じているのかもしれないですね。

話をコンテンツとマーケットに戻します。
TVのお笑いがネタ番組からフリートークバラエティに移り変わって行きました。
職人芸(どのように演じるか)を見るよりも、
職人のアドリブ(何を表現するか)が見たいのです。しかもタダで。

フレンチシェフの自慢の定番コース料理よりも
そのシェフの作るチャチャっと作る『賄い飯』に興味があるのかもしれない。
匠の細かいディテールの機微よりも
『発想や視点の意外性』を好むのでしょう。
情報過多は刺激がエスカレートするものです。

しかしそうはいっても一定数の落語ファンや寄席、演芸場ファンと言うものは
クラシックファン同様いるもので、その範囲のマーケットであれば問題ないのでしょう。
昔の『夏のジャズフェス』がそもそもバブルで異常だったのかもしれませんね。

今ジャズライブハウスがプロミュージシャンのライブだけでは厳しくなり、
素人のジャムセッションで収益を得ているというのは面白い現象です。

この場合、刺激がエスカレートしているのではなく、
承認欲求や自分発信ブームかもしれません。
もしくはコミュニティー帰属欲求でしょうか?

これはまた改めて考えてみたいテーマです。

話は変わって、
TVで『フリートークお笑い芸人』の頂点に君臨する松本人志さんが
TVのライバルであるインターネットで製作した
ドキュメント形式のお笑い番組がすごいと話題です。
私は別にこれをアフィリエイトしているわけでもなんでもないが、
とうとう『お笑い職人のアドリブ芸』をTVでタダでなく、
ネットで『お金を払って』見る時代が来たのです。

お笑いの世界がやっと『ジャズ』に追いついたのです。




                                                             


 

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